赤字会社の税務戦略
赤字会社である場合に考慮すべき税務上の留意点には次のような事項があります。
A.消費税
消費税について、還付の可能性がありますが、簡易課税事業者を選択していた場合には、還付を受けることができません。今後の事業の状況と設備投資計画により、簡易課税の取止めて本則課税にするか検討します。簡易課税を一度選択すると、その選択から2年間は変更できません。取止める場合には、取止めを開始する事業年度開始の前日までに税務署に「簡易課税選択不適用届出制度」を提出します。
B.法人税
繰越欠損金の処理と活用
繰越欠損金の要件は、
- 欠損金が生じた事業年度で青色申告書を提出している
- その後、無申告の事業年度がない(無申告の事業年度があるとその後の事業年度で繰越控除できない)
上記の条件のもとに、欠損金は5年間繰越すことができます。したがって、赤字会社であっても、申告期限内(原則として決算期から2ヵ月以内)に青色法人申告書を提出するようにすべきです。
決算対策による費用計上の縮減
基本的な考え方は、税務上、費用計上が任意規定である項目について当期に費用計上を見送るものと資産計上が認められる項目について費用計上せずに資産として計上するものです。
短期的には、税務上有効な対策であると考えられます。ただし、あくまで税務上認められた任意規定を活用するもので、会計上は認められないものがあります。非公開企業には有効であっても、株式公開を念頭においた企業にあっては行うべきではない会計処理が大部分であることに留意が必要です(むしろ、公開を目指す企業で、以下の会計税務処理を行っていた場合には、監査法人の監査で指摘され修整を求められます。過年度の決算書を訂正するには株主総会決議が必要です。)
- 消耗品費を消耗品に資産計上する
- 賃借料、保険料、支払利息を前払費用に計上する
- 修繕費を資本的支出にする
- 試験研究費・開発費を繰延資産計上する
- 固定資産の減価償却を行わない(税法上は固定資産の償却は任意)
- 繰延資産の償却を行わない(税法上は繰延資産の償却は任意)
資産処分による対策
・含み益のある不動産・有価証券の売却
第三者に売却できない場合、関係会社や役員へ売却する方法もあります。税務上は、譲渡価額に留意することが必要です。株式公開を念頭においた企業にあっては、関係会社間取引については十分な留意が必要です(監査法人の指摘事項となる可能性があります)。
役員の相続税対策を兼ねた対策
・役員から金銭の贈与を受ける
個人から法人への贈与により譲渡所得の起因となる資産の移転があった場合譲渡があったものと見なされます。一方で金銭はみなし譲渡の対象にならないことから、例えば、繰越欠損金が1億円ある会社に役員が1億円の金銭を贈与しても役員には所得税が課せられないことを利用して相続税の節税効果をはかるものがあります。
・役員から債務免除を受ける
役員から法人が借入をしている場合、役員が債権放棄した場合、みなし譲渡の対象にならず、所得税が課せられない事を利用して相続税の節税効果をはかるものがあります。
また、M&Aで繰越欠損金がある会社の売買の際に、役員から法人が借入をしている場合、債務免除を受けるのはよく使われる手法です。
組織変更による対策
・営業譲渡
含み益のある資産または営業権を合理的に評価できる場合に営業譲渡による利益により繰越欠損金の控除を検討する方法があります。
・逆さ合併
欠損金のある赤字会社が黒字会社を吸収合併する方法です。ただし、逆さ合併を行うことに合理的理由が必要であり、租税回避を意図した逆さ合併の場合には、繰越欠損金の損金算入を否認された判例があり、十分な留意が必要です。 |